【ここまでのあらすじ】
オレゴン州ポートランド。主人公のリネットは、母親と障害のある弟ケニーと共に暮らす今の家を、手頃な価格で購入するという長年の夢が叶う寸前にいた。
しかし、契約直前に母が購入資金で新車を購入してしまう。
残された時間はわずか1晩。
リネットは失われた資金をかき集めるため、封印してきたはずの「暗い過去」と対峙し、危険な夜の渦へと身を投じていくのだった…。
家の購入契約を目前にして、主人公リネットは、資金援助を約束していた母ドリーンに裏切られます。
ドリーンは、家の頭金となるはずだった25,000ドルを、自分のための新車購入に充ててしまいました。
弁護士から翌朝9時までという猶予を与えられたリネットは、たった一夜で資金を集めるため、ポートランドの裏社会へと足を踏み入れます。
リネットは資金を集めるため、次々と危険な行動に出ます。
まず、援助交際の相手スコットのもとを訪れますが断られ、関係を持った後に彼の高級車を盗み、乗り捨てます。
次に、バーの同僚コーディを巻き込み、女友達の家から金庫を盗み出しますが、仲間割れの末、コーディを車ではねて金を取り返しました。
最後には、かつての元ピンプ(売春斡旋業者)であるトミーを頼り、危険なドラッグの取引にまで足を踏み入れますが、それも失敗に終わります。
すべてに失敗し、夜明けと共に家に戻ったリネット。
そこで彼女は、母がそもそも家を買う気などなく、この家に嫌悪感を抱いていたという事実を知ります。
さらに、不動産業者からの留守番電話には、「家をより高値で買う別のバイヤーに売ることにした」という、決定的な敗北を告げるメッセージが残されていました。
朝、リネットは寝ている弟に「しばらく留守にするけど、いつもケニーを愛している」と告げ、母には「昨夜は戦っていたの。家族のためにね。私なりのやり方で。これからは、自分のために戦う」と書き置きを残して家を後にしました。
物語は、彼女が車で走り去っていくところで幕を閉じます。
僕の結論はこうです。
本当の悪役は、これら3つの力が相互作用することで生まれる「状況そのもの」。
社会という名の圧力鍋が、リネットの弱さを増幅させ、母親を自分勝手な選択へと追い込む。
彼らは全員がシステムの被害者でありながら、生き残るために互いを攻撃し合うしかない。
それこそが、このシステムの最も恐ろしい勝利の形なんです。
彼女は輝かしい未来のために戦っていたのか?
それとも、無意識のうちに、壊れた過去を買い戻し、修復しようとしていたのか?
彼女が救いとして追い求めた夢そのものが、彼女の痛みの源と分かちがたく結びついている。
この二重性こそが、彼女の戦いをより一層、悲痛でやるせないものにしているんですよね。