はじめに:この映画は、あなたの脳を試す“悪魔のパズル”
ようこそ、映画ブロガーのYOSHIKIです。
さて、もしあなたが、このとんでもない傑作『哭声/コクソン』を観終えて、ここにたどり着いたのなら…
きっと今、頭の中がぐちゃぐちゃで、「一体、俺は何を観せられたんだ…?」と、放心状態にあるに違いありません。
だとしたら、それは監督の思うツボなのかもしれませんね。
まず、断言させてください。
この映画に、分かりやすい「答え」なんてものは存在しないのです。
これは、観る者を疑心暗鬼の渦に叩き込み、信じていたもの全てを根底から覆してくる、映画の形をした悪夢そのものと言えるでしょう。
この記事は、もちろん完全なネタバレ記事。
あの悪夢の正体に、僕なりの解釈で、とことん付き合ってもらえたら嬉しいです。
まだこの地獄を体験していない人は、決して、決してこの先を読まないでくださいね。
…さあ、もう一度、あの混乱の村へ戻る覚悟はできていますか?
映画『哭声/コクソン』【ネタバレなし】感想と10段階評価
映画『哭声/コクソン』全体的な感想(ネタバレなし)
「ホラー映画」だと思って観ると、度肝を抜かれます。
「サスペンス」だと思って観ると、足をすくわれるでしょう。
「ミステリー」だと思って観ると、きっと頭がパニックになります。
これは、そんなあらゆるジャンルを飲み込み、シェイクし、観客の脳みそに直接叩きつけてくるような、とんでもない映画体験が待っている作品です。
2時間半という長さを全く感じさせない、凄まじい没入感。 時折挟まれる、ブラックユーモアとしか思えない不謹慎な笑い。
そして、観終わった後に襲ってくる、言いようのない疲労感と、考察が止まらなくなる知的興奮。
軽い気持ちで手を出したら、火傷じゃ済まないかもしれません。
でも、あなたが「忘れられない映画体験」を求めているなら、これ以上の作品は、そうそうお目にかかれないはずです。
映画『哭声/コクソン』10段階評価レビュー
【ネタバレなし】映画『哭声/コクソン』のあらすじ
平和な田舎の村に、得体の知れない日本人の男(國村隼)が住み着いてから、奇妙な事件が続発します。
村人が、理由もなく家族を惨殺するのです。
事件を担当する、気の弱い警察官のジョング(クァク・ドウォン)。
彼は、すべての元凶が“よそ者”である日本人にあると疑い始めます。
そんな中、ジョングの最愛の娘に、他の村人と同じ症状が現れ、日に日に凶暴になっていく。
彼は娘を救うため、高名な祈祷師イルグァン(ファン・ジョンミン)を呼び、悪魔払いの儀式を行うのですが…。
事態は、村全体を巻き込む、混乱と疑心暗鬼の渦へと発展していきます。
【超重要ネタバレ】映画『哭声/コクソン』の結末と物語の全貌
この物語の結末は、観る者に一切の救いを与えてはくれません。
祈祷師イルグァンは、実は日本人とグルだったかのような素振りを見せ、ジョングに「あの女(ムミョン)は幽霊だ、信じるな」と告げます。
一方、謎の女ムミョンは、「あの祈祷師こそが悪霊の手先だ。鶏が三度鳴くまで、家に入ってはならない」と警告します。
板挟みになったジョングは、パニックの末、娘が待つ家へと駆け込んでしまう。
そこで彼が目にしたのは、家族が無残に殺され、娘が呆然と佇む、地獄のような光景でした。
同時刻、日本人を追い詰めた助祭は、洞窟の中で、彼が悪魔的な存在へと変貌する姿を目撃し、絶叫します。
ジョングは、変わり果てた娘に「父ちゃんが全部解決してやるからな」と、力なく呟き続ける。
しかし、その約束が果たされることは、永遠にないのです。
映画『哭声/コクソン』の主要な考察ポイント
深掘り考察①:結局、犯人は誰だったのか?悪魔は誰だ?

この映画の最高の“つまみ”は、「で、結局誰が悪魔だったの?」って、友達と朝まで語り明かせることなんですよね。
これが最も有力な説でしょう。
ラストで日本人が悪魔の姿を見せる以上、彼が元凶なのは間違いなさそうです。
だとすれば、彼を妨害しようとした女は村の守護神で、祈祷師は悪魔に買収された協力者ということになります。
いや、待てよ。
本当にそうでしょうか?
女は、死んだ人間の服を着て現れます。
彼女こそが死を招く存在で、日本人はただの哀れな隠遁者だったのでは?
祈祷師は、彼女の妖術に気づいてジョングを助けようとしたが、失敗した…
とも考えられますよね。
日本人と祈祷師がグルなのは、同じ「ふんどし」をしていたことから明らか。
では、女は?
もしかしたら、この村で起こる悲劇を「楽しむ」ために、三者三様の役割を演じていただけかもしれません。
どうでしょう?
考えれば考えるほど、分からなくなります。
でも、それでいいんです。
ナ・ホンジン監督は、僕らに「答え」ではなく、「混乱」そのものをプレゼントしてくれたのですから。
深掘り考察②:「疑い」こそが本当の“呪い”
僕が思うに、この映画の本当のテーマは、「疑い」という感情そのものが、最強の呪いになる、ということではないでしょうか。
主人公のジョングは、平凡で、どこにでもいる父親です。
彼は、論理的に考えられない。
ただ、噂に流され、目に映るものに惑わされ、感情的に行動します。
日本人が怪しいと聞けば、彼を犯人だと決めつける。
祈祷師がすごいと聞けば、全財産をはたいて彼にすがる。
女が祈祷師を悪だと言えば、それを信じてしまう。
彼の行動には、一貫した「信念」がありません。
あるのは、ただ「疑い」と「混乱」だけ。
そして、その疑いが、彼に最悪の選択をさせ続けるのです。
もし彼が、女の言葉を最後まで信じきれていたら…?
もし彼が、祈祷師の儀式を最後までやり遂げさせていたら…?
「たられば」を言っても仕方ありません。
でも、この映画は、確固たる信念を持たず、疑いに心を支配された人間が、いかに簡単に破滅するかを、これでもかと見せつけてくる。
それこそが、この物語の最も恐ろしい呪いになっているように思います。
深掘り考察③:ナ・ホンジン監督の“悪意”ある(?)超絶技巧
映画好きとして、ナ・ホンジン監督の演出には、もう脱帽するしかありません。
彼は、僕ら観客を、主人公ジョングと全く同じ「情報が錯綜する地獄」に突き落とすのです。
祈祷師の儀式のシーンなんて、その最たるもの。
祈祷師が日本人を呪う儀式と、日本人が誰かを呪う儀式が、モンタージュで交互に映し出されます。
僕らは、どちらがどちらを攻撃しているのか、全く分からなくなりますよね。
この編集、天才的ですけど、性格が悪すぎる(笑)。
監督は、わざと「答え」を提示しません。
むしろ、観客をミスリードさせるようなヒントをそこら中にばら撒き、僕らの混乱を楽しんでいるフシすらある。
彼は、僕らに「真実はこうです」と教えるつもりなんて、さらさらないのでしょう。
映画『哭声/コクソン』まとめ:答えのない“問い”を、あなたに。
だから、この映画にスッキリするような答えを求めちゃいけません。
安易な謎解きを期待して観ると、きっと裏切られるでしょう。
この映画は、答えではなく、「問い」そのものを、僕らの心に深く突き刺してくる作品なのです。
何を信じるべきか。
何を疑うべきか。
得体の知れない恐怖を前に、人間は、どれほど無力で、愚かなのか。
観終わった後も、あなたの頭の中では、登場人物たちの顔がぐるぐると回り続けるはずです。
その、どうしようもない混乱と、考え続けるという行為こそが、『哭声/コクソン』という映画体験のすべてなのかもしれませんね。
こんな映画、他にない。
だからこそ、僕らはまた、この悪夢に挑んでしまうのではないでしょうか。
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